ものがたり

#01 兵馬

付喪神を、常世へ還す生業──“塞眼”。塞眼御三家の一つ・岐家の次期当主である兵馬は、付喪神を手当たり次第に封じてしまう問題児。見かねた現当主であり祖父の造兵に、荒療治として付喪神と共棲する長月家への居候を命じられる。「一年間の居候を果たさなければ塞眼の資格を剥奪する」と告げられ、しぶしぶ長月家のある京都に向かうことになった兵馬。付喪神に兄姉を奪われた過去から付喪神を強く恨む兵馬は、長月家の付喪神"婚礼調度"と初日から衝突してしまう──

#02 汀線(ていせん)

長月家の付喪神"婚礼調度"との戦闘の最中、家主の長月ぼたんが帰宅。兵馬と衝突する"婚礼調度"を叱るぼたん。人と付喪神の距離の近さを目の当たりにした兵馬は、ぼたんが"婚礼調度"にたぶらかされているのではないかと誤解してしまう。ぼたんを案ずる思いから、目を覚ますように諭す兵馬。家族同然の存在として”婚礼調度”に守られて育ったぼたんは、当然気を悪くしてしまう。居候の条件に期限内での"婚礼調度"への歩み寄りを言い渡され、初日早々塞眼の資格を剥奪される危機に瀕してしまう。

#03 溢流(いつりゅう)

長月家への居候を続行するために、3日以内に"婚礼調度"へ歩み寄ることを条件に言い渡された兵馬は、無事『薙』『硯』『鏡』3名の支持を得ることに成功した。特にぼたんへの想いが深く警戒心の強い『結』との関係修復を心配する薙たちを他所に、兵馬は『結』の塞眼代行の務めに同行することに。ギクシャクした雰囲気の2人の前に、長月狩りを名乗る付喪神が現れ、戦闘が始まる。兵馬は人に使役される特例付喪神の務めとしての同族狩りを目の当たりにすることに──

#04 密契(みっけい)

長月家の付喪神『羽織』『薙』『結』『硯』『鏡』『匣』、"婚礼調度"全員の支持を得られた兵馬。改めてぼたんにこれまでの非礼を詫び、居候の権利を無事獲得する。和やかな雰囲気で、握手を交わし和解する最中、"婚礼調度"たちに呼び出される2人。中央に『寿』の酒樽・「旦那様候補ご来臨」と書かれた横断幕がかかる居間に通され、困惑する兵馬。居候の交渉の際、"婚礼調度"の本懐、ぼたんの嫁入りに関する密契を、造兵と"婚礼調度"が交わしたことが告げられる──

#05 疑惑(ぎわく)

付喪神『灰均』からぼたんを守った兵馬は、ぼたんをつけ狙う付喪神を警戒し、塞眼秘伝の御札を屋敷の周囲に貼り回ってしまう。しかし長月家には『匣』の強力な結界があり、御札は不要であると『薙』に諭され回収に向かうことに。街中で御札を剥がす兵馬のもとに、内部調査や諜報活動を主な仕事とする新たな付喪神『袿』と『煽』が現れる。ぼたんに接触した岐の動きを調べにきたという二人の出現により、兵馬はぼたんには何か"秘密”があると悟ることとなる。

#06 牡丹(ぼたん)

『煽』から聞いた"憑坐"という言葉の意味を確かめようとぼたんに「付き合って欲しい」と告げる兵馬。びっくりしたぼたんは逃げるように走り去ってしまう。『羽織』は、ぼたんを守るため秘密を知りたがる兵馬に、ぼたんを尾行するデートを持ちかける。そこで兵馬が目の当たりにしたのは『匣』の結界がない外の世界でぼたんに向けられる、夥しい数の付喪神からの視線。ぼたんの異常な日常に触れた兵馬は「長月ぼたんを用いるな」という不文律と共に、彼女の秘密を知ることになる。

#07 胎動(たいどう)

秘密を知ったにも関わらず変わらない兵馬の態度に、安心するぼたん。距離がぐっと縮まった2人の関係に喜ぶ『羽織』と『鏡』。婚礼調度のぼたんへの"想い"に触れて付喪神に対する認識が徐々に変化しつつある兵馬であった。そんな中、岐と長月家の関係性を調査していた諜報員の『煽』が言伝を持って再び現れる。「長月ぼたんを用いるな」という不文律は破られていないという『煽』の調査結果に納得しなかった、塞眼京都守護代表『門守一派』からの呼び出しを受けた兵馬は、当主の門守大樹から長月家に関する取引を持ちかけられる。

#08 境涯(きょうがい)

京都守護代表・門守大樹からの「婚礼調度を封印しぼたんを排除してほしい」という依頼を断った兵馬。大樹は力でねじ伏せようと、次々と傀儡符のついた付喪神を繰り出し、兵馬を攻撃する。難なく封印していく兵馬であったが、人間に敵意がなかったはずの見知った付喪神『薬研』の登場に動揺してしまう。情けをかけた相手を壊したという心の空白を利用し、兵馬に傀儡符を打ち込もうとする大樹。しかし、兵馬は『薬研』を助け、壊すことなく正気に戻してしまう。

#09 怪火(かいか)

無事、大樹から認められことなきを得た兵馬は、ぼたんと共に京都を散策することに。『唐傘』によって兄姉が殺され全ての付喪神を憎んでいた兵馬であったが、徐々に認識に変化が現れているとぼたんに告げる。想いを打ち明け、さらに距離が縮まる二人であった──
岐が長月家と関わったことで、付喪神集『叢原火』と門守が衝突。『婚礼調度』と兵馬も『叢原火』の討伐に駆り出されることとなる。京都塞眼の次期代表候補である椿と共に『叢原火』のアジトに潜入する兵馬『結』『煽』の前に、『挽切』『筵』『笞』が現れる。

#10 眩耀(げんよう)

『結』との噛み合わない連携により、『挽切』に大ダメージを与えることに成功した兵馬。壊れかけの『挽切』は器の役割に従って生きているにもかかわらず仕打ちを受けることに納得がいかないと主張する。器にこだわり己を生きようとしない『挽切』に、現世に生きる資格はないと告げる門守は、情けをかけることなく『挽切』を処分するのだった。『叢原火』を無事討伐した兵馬は、椿もまた『唐傘』を追っていることを告げられ、手を組まないかと持ちかけられるが──

#11 暗箭(あんせん)

『叢原火』との戦いを終え、束の間の平穏が訪れる長月家に京都塞眼の通販カタログが届く。兵馬は、対付喪神装備を発注し、受け取りに必要な適性試験を受けることに。付喪神が作った生きた衣服である装備と『関係』を築くことが必要であることを告げられ、付喪神を纏うことに難色を示す兵馬であったが、大怪我をしてぼたんを心配させないために試験を受ける覚悟を決める。装備である反物と拳で語り合うという型破りな方法で共闘関係を築いた兵馬に一同は唖然とするのであった。

#12 花明(かめい)

武具一式を一単位の器として生まれた異例の付喪神にして、京都三大付喪神の一角、大具足の『挂』が兵馬の前に姿を現す。あっけなく押し負ける兵馬に対し『唐傘』の名を出して煽る『挂』。戦闘が激化する中、『薙』と『硯』が駆けつけ事態は一時収束する。『挂』の目的は噂の渦中にある兵馬に挨拶をすることであった。『唐傘』が動く原因はぼたんにあると告げる『挂』に対し、怒りをあらわにする『薙』と『硯』。その最中、ぼたんが現場に居合わせてしまい──

#13 出手(ずるて)

『挂』に未熟と言われてしまった兵馬は、門守家に通いながら椿と修行をすることに。
かつて『唐傘の付喪神』に殺されてしまった兵馬の兄・隼人、姉・鼓吹との思い出話を聞いた椿は、自身が二人に愛されていたことを知り、兵馬と共に『唐傘の付喪神』を倒すことを再度決意する。
そんな中、京都三大祭りの一つである葵祭の警備及び休暇のため、『雅楽寮』が現れる。
京都三大付喪神の一角であり、全員が楽器の付喪神である『爪弾』『鼓』『吹枝』は、群衆を襲う『花傘』の付喪神を難なく制し、ただならぬ威圧感で兵馬を圧倒するが──。

#14 番舞(つがいまい)

十数年ぶりに里帰りした京都三大付喪神の一角『雅楽寮』。全員が楽器の付喪神である彼らの本懐は、「人間に音を聴かせること」。突如として路上で凱旋ライブを始めるが、その実力は確かで観客が沸き立つ。怪訝に思う兵馬を鏡は強引に遊びに連れ出すことに。日々、修行に明け暮れていた兵馬は遊ぶということが理解できずボウリングやカフェ巡りなど、鏡にエスコートされる。鏡の目的は兵馬の恋愛観を調査することだった。少しずつぼたんとの距離が縮まり始めた兵馬に率直な思いを聞くと……?

#15 暗鬼(あんき)

『雅楽寮』が京都に里帰りした本当の理由は、休暇ではなく新たな指定付喪神の捜査のためだった。特例付喪神の『煽』が唐傘をさした付喪神と遭遇した、と話しており、兵馬の兄・隼人、姉・鼓吹を殺した『岐殺』ではないかと推測する雅楽寮と羽織、匣。胸中がざわつく一同をよそに、大学の百人一首同好会の部員獲得に奔走するぼたんだが、必死すぎる友人達の重圧により部員候補を逃してしまう。しかし友人達は次の標的に兵馬を定めぼたんへの気持ちを問い詰めるが、兵馬の答えとは…

#16 竜変(りゅうへん)

サークル活動後、友人らと街に繰り出したぼたんは、唐傘を差す不審な付喪神に襲撃され結界内に閉じ込められてしまう。兵馬は禍々しい霊気をすぐに感じ取り、『雅楽寮』の『吹枝』と共に一同を助けに向かう。目の前の相手が兄姉の仇なのか疑念を抱く兵馬であったが、「隼人」と「鼓吹」の名前を口にしたことで敵が因縁の『唐傘』であることを確信する。激昂した兵馬は周りが見えなくなってしまい、ぼたんを危険な目に遭わせてしまう。

#17 落月(らくげつ)

宿敵である唐傘の付喪神を『婚礼調度』『雅楽寮』と共に討伐することに成功した兵馬であったが、まだ心に疑問が残る。そんな中、長月家で外敵の侵入を防ぐために結界を張っていた匣が襲撃されてしまった影響でぼたんが倒れてしまう。屋敷も一部崩壊してしまい門守家に世話になることとなった兵馬と長月家一同。兵馬は早速に椿からデートのお誘いを受けるが断る。その事で門守家の長男である松太、次男である梅吉を憤慨させてしまい5時間説教を受けるハメに……。ようやく目を覚ましたぼたんの様子を見に行く兵馬は思いを打ち明けられる――。

#18 弘誓(ぐぜい)

長月家の屋敷が破壊されてしまったため、ぼたんは門守家で匿われることに。ぼたんはその身を守るために門守から休学を指示され、さらに『婚礼調度』はマレビト対策室の八衢に呼び出しを受ける。『婚礼調度』不在の間、ひとり残されたぼたんを守護する役割に、『雅楽寮』がつくこととなる。兵馬は崩壊した長月家の屋敷を前に、『婚礼調度』に代わって付喪神の襲撃からぼたんを守る決意を固める中、薙から”守ること・誓うことの重み”を理解しているか試される。

#19 波濤(はとう)

京都塞眼での生活に馴染みつつあるぼたんは、八衢のいる東京へと向かった『婚礼調度』から連絡が一向に来ないことを気にしていた。一方、塞眼たちは相次いで出現する野良付喪神の討伐に追われる。門守松太は、やる気のない割にしぶとく向かってくる付喪神たちの様子を不審に感じ、代表である大樹に報告する。大樹は、松太の報告から敵の狙いを察知し、事態の深刻さをみて「辛の三番」を発令する。その頃、『婚礼調度』を乗せた車は『唐傘』に強襲され――。

#20 狂花(きょうか)

『雅楽寮』と『唐傘』がグルであることを知った兵馬とぼたん。ぼたんを引き渡すよう迫る『雅楽寮』に対し、兵馬をはじめとする塞眼たちは真っ向からその要求を拒否し戦闘が始まる。ぼたんを攫うため、その傍から兵馬を引きはがそうと激しく攻める『爪弾』と『唐傘』。ぼたんを護りながらの闘いに苦戦を強いられる兵馬。そんな窮地に門守椿が降り立つ。凄まじい攻防をみせる椿に唖然とするぼたんであったが、兵馬はその様子に違和感を抱く。

#21 来迎(らいごう)

「門守の麒麟児」こと椿は、狂気の笑い声を響かせ『唐傘』との闘いを楽しんでいた。一方、『爪弾』と戦いながら、その企みが何かを問い詰める兵馬。激闘を繰り広げる兵馬と椿だが、『鼓』と『吹枝』も参戦し『雅楽寮』全員が揃ってしまう。さらに、『唐傘』の仲間達も集結し状況はますます悪化する。ぼたんを守るために戦い、傷だらけになってゆく兵馬と椿。その姿を目の当たりにしたぼたんの脳裏に、過去のとある記憶が浮かぶ。

#22 神楽(かぐら)

『雅楽寮』と『藁座廻』が結託し兵馬・椿と対峙する。奴らの思惑は2人を供物としてぼたんを絶望させ現人神を顕現させることだった。思惑通り顕現させることに成功したが、想定以上のプレッシャーを放つ現人神に懼れを覚える『雅楽寮』。『鼓』を「物」としていとも簡単に「廃棄」してしまうほどの圧倒的な支配力に身動きが取れない付喪神たち。兵馬は満身創痍になりながらも、ぼたんを現人神から取り戻すために語りかけ続ける。その想いは結界に閉じ込められている『婚礼調度』にも届き――。

#23 火花(ひばな)

兵馬の叫びに応え、『藁座廻』の結界から、脱出を果たした『婚礼調度』。ぼたんを傷つけられ怒り心頭の彼らの前に、『雅楽寮』の『爪弾』と『吹枝』が立ちはだかる。京都三大付喪神同士の戦いは熾烈を極め、次第に『婚礼調度』は追い詰められていく。さらには高みの見物とばかりに戦いを見下ろしていた『藁座廻』もまた、憑坐であるぼたんを攫うという目的を果たすため『婚礼調度』を壊そうと襲い掛かり――。

#24 風動(ふうどう)

隼人を思わせる仕草で、兵馬に迫る『藁座廻』天日。かつて眩しく見つめていた隼人の姿が、意識朦朧となった兵馬の脳裏をよぎる。仇である天日と対峙する、ズタボロになった兵馬。「ぼたんを守り通してみせる」と覚悟を新たに引手へ力を込めるその姿を、ぼたんは真っ直ぐに見つめる。門守大樹を先頭に松太や梅吉ら京都塞眼たちも駆けつけ、数的不利な状況となる『藁座廻』。凩と吹雪は動じることなく戦闘態勢をとるが、『時雨』はある気配を察し――。